TOKYOの商店街で開業したい人必見!
こんな商店街・あんな商店街の
魅力発信コンテンツ
VOL. 53

和泉明店街 編
杉並区の東南、電車で気軽に行ける小さな沖縄が提供した大きな話題

超高層ビルが林立し、人々が慌ただしく行き交い、雑踏と喧騒が渦巻く新宿のほど近くにありながら、まるで南の島のようにゆったりとした時間が流れている商店街があります。それは杉並区の「和泉明店街」、通称「沖縄タウン」です。新宿駅から京王線の電車に揺られること約7分。代田橋駅で下車し、甲州街道を渡ったところに広がる小さな沖縄には、飲食店を中心とした店舗が50軒ほど建ち並んでいます。
決して大規模とはいえないこの商店街ですが、2020年(令和2年)、ある取り組みで社会から注目を浴びることになりました。コロナ禍で厳しい状況に追い込まれた商店街を元気づけるためにクラウドファンディングを実施し、多くの賛同者を得て、見事に目標金額を達成したのです。
この取り組みを提案し、推進したのは、杉並区の街づくり活動に携わるイベント仕掛け人、後藤裕子さん、そして都市計画・街づくりの研究をしている大学院生、蔭山亮さん。今回はこのお二人から、クラウドファンディングのことをはじめ、商店街に関するいろいろなお話をお伺いしました。

  • 甲州街道に面して立つ、首里城をイメージした「沖縄タウン」の門。はためいているフラッグは、グラフィックデザイナーでもある後藤さんがデザインしたものです。
  • 個性豊かな沖縄料理店や居酒屋などが軒を連ねる「大都市場(だいといちば)」。夜になるとたくさんの人でにぎわいます。
  • 和泉明店街事務所の前に立つ後藤さん(右)と蔭山さん(左)。お二人は定期的に開催されている商店街の会合で知り合いました。
ポジティブ思考でコロナ禍に臨み、商店街のピンチをチャンスに変える

後藤さんが和泉明店街と深く関わるようになったのは2017年(平成29年)のことだそうです。そのころ、近隣にある専修大学附属高校の授業を手伝っていた後藤さんは、沖縄タウンを盛り上げるための企画を生徒が店主の方々にプレゼンするという授業に立ち会うことになりました。生徒による提案は店主の方々もぜひ取り組んでみたいと思える内容だったので、後藤さんを間に入れて少しずつ形にしていこうという話になったのです。その後、沖縄タウンのユニークな雰囲気に魅せられた蔭山さんもメンバーに加わるようになりました。
まずは2018年(平成30年)に商店街マップをリニューアル。次に、新しくお祭りを立ち上げようと2019年(令和元年)に「わくわく夜市」を開催しました。7月と10月に行い大盛況で、翌年2月には3回目が行われる予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって中止に。その後、ますますコロナ禍が深刻化すると飲食店は休業を余儀なくされ、商店街はかつてない苦境に立たされました。このような状況を受けて実施されたのが今回のクラウドファンディングだったのです。蔭山さんは「コロナ禍を悲観的に捉えるのではなく、商店街を活性化させるチャンスに変えたいと思いました」と当時を振り返ります。

2019年(令和元年)7月に開催された「わくわく夜市」の運営スタッフ。商店街の青年部のメンバー、地元住民、大学生など、総勢20名以上が力を合わせてイベントを支えました。
商店街の思いがより多くの人に伝わるように、さまざまな活動を展開

自分たちにはなじみの薄いクラウドファンディングという企画の提案に、最初は戸惑いを見せていた店主の方々も、蔭山さんたちの熱意に押され、実施を認めてくれました。もともと和泉明店街は2005年(平成17年)に商店街の活性化を図って「沖縄タウン」へとリニューアルした経緯もあり、基本的に新しいことへの挑戦には寛容な風土があるのです。こうして和泉明店街によるクラウドファンディングは「コロナに負きらん!沖縄タウン・エールプロジェクト」と銘打たれ、2020年(令和2年)6月5日、いよいよスタートします。
後藤さんたちの発案により、返礼品には商店街で使える商品券のほか、地元刺繍デザイナーの「first line hina」さんによる刺繍入りトートバッグなど、沖縄タウンに親しみを持っていただけるようなオリジナルグッズを用意しました。また、店主の方々がメッセージを発信したり、地元シンガーソングライターの「221/つついわたる」さんに楽曲を依頼して商店街の雰囲気を伝える動画を作成したり、さまざまな活動を展開していくうちに賛同者は次第に増加。最終的には246人に上り、目標金額として設定した150万円を超える約160万円もの支援を集めることができたのです。

店主の方々一人ひとりのメッセージはチラシやSNSに掲載され、商店街の思いをたくさんの人たちに届けました。
若い人たちの力と商店街の力が一つになり、沖縄タウンはますます元気に

和泉明店街によるこの取り組みは、2021年(令和3年)11月に「第16回 東京商店街グランプリ」で優秀賞を受賞。この結果を受けた後藤さんは「やってみてよかったです。自分たちが信じて取り組んだ新しいことが、新しい何かにつながっていく手応えを感じられました」と満足そうに話します。店主の方々からも「商店街を若い力で盛り上げるきっかけになった」など、この取り組みを高く評価する声が聞かれたそうです。
和泉明店街では、クラウドファンディングの後も新しいイベントが生まれています。それは、2021年(令和3年)10月に初開催となった「沖縄タウンマルシェ」です。このイベントは、クリエイターや作家によるハンドメイドのアクセサリー、器、そしてスイーツなど、和泉明店街にはないショップを外部から招いて路面で出店していただくもの。第1回の成功を受けて、2022年(令和4年)3月19・20日に第2回が開催されることになりました。「このイベントが、地域を盛り上げたいと考えている人たちの挑戦の場になればと願っています」と後藤さんは思いを語ります。
後藤さんと蔭山さんは現在、「合同会社はじまりの和泉」という会社を設立して和泉明店街のサポートを継続。二人が提案する企画に対し、店主の方々は理解を示して柔軟に対応してくださっているそうです。若い人たちの力、そして、それを支える商店街の力がしっかりと噛み合った沖縄タウン。これからも独自性に満ちた活動を展開し、社会に明るい話題を提供していくことでしょう。

2021年(令和3年)10月に開催された「沖縄タウンマルシェ」の模様。たいへん多くのお客様が沖縄タウンを訪れ、大盛況となりました。
近隣の空き店舗を探す