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VOL. 54

高円寺銀座商店会協同組合(高円寺純情商店街) 編
多種多様な人々が集う高円寺で、人情に厚い商店街として長年親しまれてきた

JR中央線沿線といえば「中央線カルチャー」という言葉があるほど、個性豊かな街がそろっているエリアですが、中でも「高円寺」はその代表格といえるでしょう。昭和40年代よりロック喫茶やライブハウスがオープンし、フォーク&ロックの聖地として知られ始め、その後は駅の南側を中心に都内屈指の古着街が形成されていきました。ただし、注目すべきはこうしたディープな若者文化ばかりではありません。毎年8月下旬に開催される「東京高円寺阿波おどり」は本場の「徳島市阿波おどり」に次ぐ大会規模で、阿波おどりの街としても全国的に有名です。
そんな高円寺の駅を降りると、北口正面に目を引くオレンジ色のアーチがあります。ここが「高円寺純情商店街」の入り口。このユニークな名称は、かつてここにあった乾物屋に生まれた地元作家、ねじめ正一氏の小説のタイトルから取られたものです。この作品が第101回直木賞を受賞した1989年(平成元年)から愛称として使用され、その名のとおり人情に厚い商店街として親しまれてきました。そして、それから31年後の2020年(令和2年)、高円寺純情商店街は再び同氏の小説を軸にしたブランディングの取り組みを行い、大きな反響を呼んだのです。今回は、商店街の代表としてこの取り組みを推進した吉田善博専務理事からお話を伺いました。

  • アーチには杉並区の公式キャラクター「なみすけ」が乗っています。「なみすけ」は、スギナミザウルス島に住んでいた妖精です。
  • ねじめ正一氏著『高円寺純情商店街』。昭和30年代の東京を舞台に、商店街に生きるさまざまな人の暮らしが下町情緒とともに描かれています。
  • 興味深い話をたくさん聞かせてくださった吉田専務理事。大学で数学を専攻していたことから、財務関係を主に担う現在のポストに抜擢されたそうです。
原点回帰のブランディングで、商店街のアイデンティティを再構築

このたびの取り組みの背景には、時代の流れによる商店街の変化がありました。高円寺純情商店街は、高円寺という活気にあふれた街の駅近という恵まれたロケーションにあり、常に人通りが絶えることなく、昼夜問わずにぎわいを見せています。商店街としては順風満帆そのもののように思えますが、実は近年、社会の少子高齢化などの影響で、昔ながらの個人店舗が後継者不足のために減少。人の優しさ、温かみにふれられるこの商店街のよさが徐々に失われてきていることが不安視されていました。
そこで高円寺純情商店街では、杉並区の「地域特性にあった商店街支援事業補助金」を活用して、この商店街の歴史、イメージを今一度再認識してもらうために、商店街の魅力をブランディングする取り組みに着手。やはりこの商店街の原点はねじめ正一氏の小説なので、今回も同氏の小説を取り組みの中心に据えることとし、同氏に短編小説の執筆を依頼したところ快諾が得られました。こうしてこの取り組みは「高円寺純情小説プロジェクト」と銘打たれ、本格的に動き始めたのです。同氏が書き上げた短編小説『梅雨の子』は、3,000部を印刷して無料配布するとともにホームページにも掲載。さらに、その世界観をより深く理解してもらえるように、商店街の回遊が楽しめる動画も制作しました。

『梅雨の子』の冊子には、高円寺の魅力を語るねじめ正一氏と吉田専務理事との対談記事や、街の昔と今が比較できる地図も収録され、幅広く読者の興味を引くものとなっています。
地域の将来を担う子どもたちの育成のために、商店街ができること

今回のプロジェクトは『梅雨の子』をコアとしていろいろな方面に取り組みが波及しました。その一つが次世代育成。この街の明日を担う地元の中学生たちが考えた地域の課題の解決策を『梅雨の子』の冊子に折り込んで発信したのです。「商店街の役割は広義には街づくりにも及び、そしてその中には子どもたちの育成も含まれるのではないかと考えました」と吉田専務理事は取り組みに込めた思いを語ります。
さらに、純情商店街らしさを持つ商品を「純情ブランド」として認定し、商店街マップを作成して取り扱っているお店を紹介しました。「純情ブランド」のジャンルは、お米やお酒からマッサージ、アクセサリーまで、幅広い範囲に及び、商店街を訪れてくださる方々に純情商店街らしさを五感で体感していただけるラインアップとなっています。また、北口正面のアーチに乗っている杉並区の公式キャラクター「なみすけ」の実物大フィギュアを制作し、イベント会場などに持ち込んで設置。フォトスポットとして撮影を楽しんでいただけるようにし、商店街のアピールにつなげました。

「山形県飯豊町アンテナショップ IIDE」の店頭に陳列された「純情ブランド」のお米とお酒。いずれも阿波おどりをモチーフとしたデザインが施されています。
顔が見えるおつきあいを大切にし、高円寺の街に心温まる物語を紡いでいく

この「高円寺純情小説プロジェクト」は、2021年(令和3年)11月に「第16回 東京商店街グランプリ」で優秀賞を受賞し、新聞や雑誌でも紹介されました。もともと取り組みが始まったころから商店街を訪れてくださる人は増えていたのですが、メディアへの露出によってさらに多くなったそうです。
吉田専務理事は一連の取り組みを振り返り「今回の事業で、この商店街の魅力を多くの人に伝えることができたうえに、愛される商店街づくり、暮らしやすい街づくりの思いを向こう10年、20年と継承していくきっかけにもなりました」と語ります。そして、今後の展望として「昨今、顔が見えないネット通販が消費活動の主流となってきていますが、やはり顔が見えるおつきあいこそが商店街ならではのよさ。特に純情商店街を名乗るからには、これを今後もずっと大切にしていきます」と話してくださいました。時代を越えて、人情に厚い商店街であり続けようとする高円寺純情商店街。これからもたくさんの人が集い、ふれあい、高円寺の街に心温まる物語を紡いでいくことでしょう。

約250もの店舗が軒を連ねる高円寺純情商店街。道路脇に立つLED街路灯は「街が暮らしのステージ」というコンセプトから、スポットライト風のものが採用され、店舗の看板を邪魔することなく、道ゆく人の足元だけを照らします。
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