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VOL. 52

拝島駅前商店会 編
白と黒のハイボールに、耐え忍んできた15年分の思いを込めて

東京都の西側、西多摩郡、旧南多摩郡、旧北多摩郡からなる、いわゆる「三多摩」の中心に位置する街、拝島。今この地で、テレビや新聞などのメディアに頻繁に取り上げられ、話題となっているものがあります。それは白と黒、2種類の味が楽しめる「拝島ハイボール」。これを生み出し、提供しているのが、拝島駅南口周辺に広がる商店街「拝島駅前商店会」です。
事の発端は2005年(平成17年)にまでさかのぼります。拝島駅の橋上駅舎・南北自由通路の建設を皮切りにスタートした、昭島市による拝島駅南口周辺整備事業と道路整備事業が、2019年(平成31年)まで継続して行われることになりました。それまでの拝島駅南口周辺は道路がたいへん狭く、バスが通るときに歩行者は電柱の陰に身を隠していなければならないほどだったのです。工事開始からおよそ15年もの間、商店街は活動が制限されて停滞し、移転や廃業に追い込まれる店舗も少なくありませんでした。そこで工事完了を機に、拝島駅と商店街のことをより多くの人に知ってもらいたいとの思いから始められたのが、この拝島ハイボール事業だったのです。
今回は、商店街のリーダーとしてこの取り組みを強力に推進してきた岡部恒男会長に、いろいろなお話をお伺いしました。

  • 商店街の中でも多くの店舗が集まっているエリア。この道路は、玉川上水からの分水である拝島分水が下に流れていることから、工事完了を機に「拝島分水通り」と呼んでいます。
  • 商店街のあちこちで見られる拝島ハイボールのポスター。和風と洋風、2種類のイメージのものが作成されました。
  • 2005年(平成17年)から拝島駅前商店会を牽引している岡部会長。幼少時よりずっと拝島で暮らしてこられた方です。
偶然にそろっていた「ここでしか味わえない一杯」を生み出せる条件

拝島駅南口周辺の工事完了後、商店街として具体的にどのような事業を行っていくかについては、工事完了前の2018年(平成30年)からすでに話し合いが始められていたそうです。その中で「拝島でしか飲めないハイボールを開発して名物にしてはどうか」という提案がありました。
最初は「拝島」と「ハイボール」をくっつけると語呂がよく、覚えやすいので認知のスピードも速いはずという着想から始まったのですが、偶然にもこの商店街にはおいしいハイボールをつくることができる条件がそろっていたのです。まず、「多満自慢」で有名な多摩を代表する老舗酒蔵「石川酒造」と深い関わりがあったこと。また、社団法人日本バーテンダー協会からベストバーテンダーの称号を授与されたこともある大須賀清史マスターの「K’s BAR」があったこと。そして、地下70メートルより深い層から汲み上げた、昭島市の「深層地下水100%」というおいしい水があったことです。
早速大須賀マスターは、石川酒造製のリキュールと、炭酸水にした深層地下水100%を使用して、レシピ開発に取り組みました。そして、杉の香りが漂うすっきりした味わいの「白」、そして甘口でコクのある味わいの「黒」という2種類のハイボールを完成させたのです。

拝島ハイボールのレシピを考案した「K’s BAR」の大須賀マスター。バーテンダーを養成するスクールの講師も務めていらっしゃいます。
「拝辛(ハイカラ)セット」の提供とイベントの開催で大きな反響を呼ぶ

このようにして誕生した拝島ハイボールですが、やはりお酒のお供にはおいしいお料理がつきものです。そこで、拝島ハイボールにぴったりの辛いおつまみを各店舗がそれぞれ独自に考案。拝島ハイボールと一緒に「拝辛(ハイカラ)セット」として提供することになりました。そして、いよいよ2020年(令和2年)9月7日から、拝島駅前商店会の飲食店、計16店舗で拝島ハイボールの発売がスタート。この16店舗の中には、拝島ハイボール事業を通して新たに拝島駅前商店会の会員となったところもあったそうです。
拝島ハイボールは発売当初から好評を博し、11月には、拝島ハイボールを飲んでスタンプを貯めると抽選で商店街の店舗で使える商品券が当たる「拝島ハイボール誕生記念スタンプラリー」も開催。また、拝島ハイボールの人気には、拝島駅に乗り入れるJR、西武鉄道も大いに興味を示し、各社それぞれの手法で熱心なPR活動を展開しました。

JRの拝島駅がホームに貼り出した拝島ハイボールの特大ポスター。このポスターはJRの拝島駅が独自に作成したものだそうです。
拝島ハイボールから生まれた商店街の一体感は、やがて街全体の一体感へ

その後、拝島駅前商店会によるハイボール事業は昭島市から推薦され、2021年(令和3年)11月、「第16回 東京商店街グランプリ」で優秀賞を受賞することになりました。この結果を受けた岡部会長は「おかげさまでたくさんの取材を受け、テレビの情報番組や新聞のカラー紙面などでご紹介いただきありがたい限りです。拝島ハイボールは飲食店以外の店舗もポスターを貼り出してPRに協力してくれるなど、商店街としての一体感を生み出すことにもつながりました。今後もこの事業は継続し、商店街にとどまらず、拝島という街全体の一体感まで生み出していきたいと考えています」と語ってくださいました。
拝島では、2011年(平成23年)に発足した「拝島駅南口地区まちづくり委員会」によって「ぶらぶら歩きがここちよいまち・拝島」を目指し、今も整備が進められています。これからもますます魅力的に生まれ変わっていくこの街で、拝島ハイボールは「ここでしか味わえない一杯」として末長く愛され続けていくことでしょう。

現在の拝島駅南口。南西側の国道16号線と地盤面の段差が約6メートルもあることを活かし、地下を駐輪場とすることで迷惑な違法駐輪を解消するとともに駅前の景観美化にもつなげています。
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